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千秋の泣き顔が頭から離れない。
キツい。可愛くて内気だけど、椿を抱っこする姿とか、なんか女神様みたいに綺麗だったのに。
「ただいま!」
「しーっ」
緑に悟られないように元気に玄関を開けたら、緑に睨まれた。
緑は、背筋を真っ直ぐ伸ばして正座しながら寝ている椿を優しくトントンしていた。
その姿が……千秋みたいに優しいマリア像みたいで何だか切なく泣きたくなる衝動に刈られる。
「どうしました?」
俺の余裕のない表情に緑が首を傾げる。
「ちょっと黙ってキスさせろ」
「へ?」
「黙って舌を出せ、このバカっ」
その衝動をぶつけようとしたら、腕を引っ張られ緑の胸の中へ飛び込んでしまった。
「ムードのないキスはお断りですが、抱き締めてはあげれますよ。太陽さん」
「緑……」
「イライラしてて、何かを誤魔化そうと忘れようとしてますね。それじゃキスはしません」
ぎゅっと抱き締められると、ストイックな緑らしい服から柔軟剤の匂いがした。
チャラチャラした匂いなんてしない。
きっとこいつは残り香さえ残さない。
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