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「そういや、俺、生まれた時から既に親父なんて居なかった。じいちゃんならいるけど」
俺が金髪にしたり学校をさぼったり、煙草吸ってたりすると、一階の花屋から花を切る大きなハサミで追いかけてきてた。
あのオンボロ花屋、早く潰れてしまえといつも思ってた。
「俺、愛情が欲しかったのか。そうか……」
「寂しかったんですね。いつも、明るくてそれこそ太陽のようなお人だと思っていましたが、寂しかった、見つけて欲しかったんですね」
視界の隅でばっちり、椿の寝顔を見ながら、この神様のように何でも俺を理解し受け止めようとしてくれているこの男が、初めて心の底から愛しいと思う瞬間だった。
自分でも気づかなかったら、愛に飢えていた俺を見透かして、抱きしめて受け止めて。
だから泣きたくなるのか。
だから抱きしめたくなるのか。
だから、お前の肌が恋しくなるのか。
キスしたくなるのか。
「お前、ちょっと怖いかも」
「ふふふ。心に侵入されるのがですか?」
「うるせー」
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