一、桜の花弁の賭け

22/23
前へ
/250ページ
次へ
「あの、もう跡取りでもないし、鹿取家代表としては行けないし。わ、私」 袴を握りながら、居たたまれない、居心地の悪い気持ちが、じわじわと心を蝕んでいく。 心まで私は地味で可愛くなくて。自分でも本当に嫌になる。 「着ていく服もない、です。着物で注目されるの、好きじゃなくて」 妹のピアノの発表会でも妹は水色のスカートがふわりとした可愛いドレスだったのに、私は着物だったし。どこかに出かける時はいつも着物ばかりで、洋服なんてあまり持ってないし。 「分かりました。私に任せてください」 デイビットさんはその長身で跪くと私の俯いた顔を覗きこんだ。 碧い目に覗かれると、どうしていいのか分からない、熱い鼓動が胸を震わす。 宝石みたいで、綺麗すぎて私には怖い。 「デイビットさん、あ、まり見ないでください」 「何で? やっと涙も止まったのに。今度は貴方の笑顔も貰いますから」 自信満々にそう笑うと、私の髪に頬を擦り寄せてから立ち上がる。 「二日後に、また来ます。いつ来るかは言いません。――言わなかったら貴方は私がいつ来るかと、頭の中で私を思い浮かべますからね。言いません」
/250ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1523人が本棚に入れています
本棚に追加