一、桜の花弁の賭け

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その言葉は、酷く私の胸を揺さぶった。 あの甘い笑顔が苦手。直視できない。 俯いてしまうけど、デイビットさんが車に乗り込むまでは意地でも門から動かなかった。 知らない。 今まで経験した事も、見たこともない。 一瞬、お姫様にでもなってしまったかのように。 デイビットさんの言葉は、私の気持ちを簡単に弄ぶ。 意地でも、これ以上からかわれたくなくて。 ――デイビットさんの白い車が消えるまでずっと目を離さなかった。 離さなかったのではなく離せなかったのかもしれない。 不幸のどん底に落とされた私の心に、桜の花弁が一枚、舞い降りた。 その花弁が涙を吸い込んでくれたので、私は今、こうして涙で溺れずに済んだはずだ。 二日後。 二日間だけ。 私の魔法はまだ溶けない。 扇の賭けの意味を知るのは、魔法にかかった二日後の夜だけど。
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