第1章

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ガチャッ「ただいまー」 僕は親父の経営する店の事務所から入った。所謂、裏口ってやつ。 自営業と言っても、万事屋をしてて、主に車の代行運転。 主な仕事がそれだったから母さんでも、親父の代わりに仕事ができたけど、 蜂の巣駆除とか、そういう仕事ってやっぱり男手が欲しかったりするんだって。 チリーン 奥に吊るされていた、乾いた、よく通る鈴の音が室内に響きわたり、出てきたのは母さんだった。 「あれ、あんたどこさいってたのさ」 「俺、今来たとこだ」 母さんの口調は、まるで、僕がさっきここに来て、また僕がやってきたような口調だ。 僕の記憶が正しければ、駅からタクシーに乗って、そのタクシーを降りたのが、数秒…いや、1分たったかぐらい前だったと思う。 「まぁいいや、荷物、二回に上げとげな」 「うん。」 久しぶりの再開とはいえ、母さんも、親父の代わりに、実務から事務仕事、さらには家事等もこなさなければならないし、何より親父の見舞いもあるので、多忙を極める一方だ。 荷物を置き、親父の入院する病院に行く。 田舎なのに、よくもまぁ、大した病院があるものだ。 でっかい病院の、奥の方。まるで迷路のようになっている院内を、廊下の床に記されている黄色い線を辿っていく。 あった。オヤジの病室。 嫌に長い廊下の先に、6人ひと部屋と言う狭くも広くもない取り分のスペースの、親父は左奥の窓際と言う恰好の場所にいた。 しかし、景色を眺めようと、立ち上がることもできない。 ベットを起こして、外を眺めることはできるが、外の空気はとてもじゃないが吸える状況ではなかった。 「親父、久しぶり。元気?」 「元気だと思うか?」 よかった。いつも通りの親父の喋りだ。 倒れたと聞いて、貧血だと勝手に決めつけてた俺だが、オヤジの体に繋がれてる、異常な数(実際はそんなに多くないが、それでも多いように見えた)が、僕に親父の病状を知らせていた。
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