127人が本棚に入れています
本棚に追加
精神がかなりヤラレたけど、気を取り直して、再び書のお稽古に取り組むことにした。
「うーん……まだまだだな。
ここの丸みと、はらい方に気をつけて、もう一回書いてみろ」
眉間にしわを寄せて、落第点を言い渡された。
滅多に真面目な態度を見せないいっちゃんだけど、弓道と書に関してだけは真剣だし、厳しい。
だから、チカも書を始めたんだよ。
いっちゃんに少しでも近づきたくて……。
「――チカ」
「え?」
――ふわり
いっちゃんの纏う、清涼でスパイシーな香りに身体全体が包みこまれた。
「動くな」
びっくりして立ち上がりかけたけど、その途中で、強引な手に動きを制されてしまう。
「このまま、続きを書いてみろ」
「えっ?」
こっ、このままって言われても!
いっちゃんの大きな身体に後ろからすっぽりと覆われてる、この体勢のままってこと?
右手は筆を持ったまま、包みこまれて。
ひっ、左の腰に手を添えられてる、この姿勢のまま?
しかも、息遣いが!
いっちゃんの息が、右の耳に当たってるんですけどっ!
「……ん? ほら、力抜けって。
そんな風に力んでたら、ヤレるもんもヤレねぇだろうが。
俺の呼吸に合わせて、動け」
無理だってばぁ!
そんなセリフを耳元で囁くの、禁止ーっ!
最初のコメントを投稿しよう!