突然の捧げ物

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いつの間にか、牧田の手は自分のコートのポケットの中におさまっていて、さっきまで温もりを感じていた頭がやたら、風通しがよく感じる。 「あ…うち、ここです。」 「ふぅーん。何号室?」 「入れませんよ?」 「入りませんし。」 「……。」 あまりに身体が冷えるので、温かいお茶ぐらい出したほうがいいのかと、一瞬悩む。 「ほんじゃ。お疲れさん。…風邪ひくなよ?」 悩んでるうちに、牧田は回れ右をして、元来た道を歩き始めていた。 「あ、あの…!」 「何?」 期待のこもった牧田の目が素早く振り向いた。 「お、おやすみなさい…。」 「…なーんだ。ほんじゃ。」 後ろ姿で、右手だけあげてバイバイとする牧田の背中を少し見送って、あたしもすぐにアパートのドアを開けた。
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