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すぐ後ろで、何かにつまずいたような男性が持っていたグラスが手放され、宙を舞う。
――ガシャッ
ちるが一瞬前にいた場所に。
「すっすまないっ!?」
幸か不幸か、グラスが割れてしまったが中身は無かったらしくガラスが散らばるだけで済んだ。すぐに会場内のボーイが数人やってきてガラスの破片を集める。
「お客様、お怪我はございませんか?」
二人にも一人が近づいてき、安否を確認する。
「ちる、大丈夫?」
イーグルも心配そうに尋ねる。
「……あ、はいー。怪我はしていませーん」
少しばかり呆然としていたちるはイーグルの声に、はっとしたように返事をした。
「まだ少し、びっくりした感じですー」
翼を胸の上に置いて呼吸を整えるちる。それから、ふぅとひとつ吐くとイーグルの翠緑玉の瞳を見た。
「イーグルさん、ありがとうございましたー。わたし、自分では気付くことができていませんでしたから、ありがとうございますー」
「ちるが怪我しなくてよかった」
そう言って微笑んだ。
*****
慣れない場所と雰囲気に気持ちが舞い上がっていたことを反省して、周りに気を配るようになったちる。ふと、視界の端に見覚えのある姿が映った。
淑やかな水色に爽やかな檸檬を連想させる黄色のレースをふんだんにあしらったドレス姿。彼女の気高き白銀の毛並みと相まって、その姿は芸術的である。
その隣には黒いロングコート姿の戦地に舞うような深紅の髪をオールバックにした男性がいる。正装しても隠しきれない鍛えぬかれた頑丈な身体と獰猛な気に誰もが戦慄を憶える。
二人の姿はこの大きな会場内でも一際目立っていたが、同時に背筋が凍える心地を味わうものだった。
「あー、シルヴィアさんー!」
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