209人が本棚に入れています
本棚に追加
何も言えずにサッと顔を伏せ、通り過ぎようとするのを止められる。
俺が想定するのよりも、いつも強い力。
俺の腕をがっちりと掴んだのは比呂斗だった。
「どうした?」
「…………鍵です」
掴まれていない片方の手で、カードキーを差し出すが比呂斗は一瞬目をやるだけで受け取ろうともしない。
「どうした、そんな顔して。なんで帰る?」
自分がどんな顔をしているかは分からなかった。
でも、きっと恐ろしく情けない顔をしているのだろう…………。
きつく唇を噛みしめて黙って俯くと、グッと腕を引かれた。
「とにかく入れよ」
「イヤですッ…………」
「ハッ!?」
あの部屋には入りたくない。
女と鉢合わせして、比呂斗の言い訳を聞くなんて真っ平だった。
最初のコメントを投稿しよう!