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「ほら、さっさとしろ」
比呂斗に追い立てられて、訳も分からぬまま玄関に上がる。
「あ、比呂斗くん、もう遅いから僕はここで。すみません、お客さんがいるのに。渋滞に嵌っちゃったもんだからすっかり遅くなってしまって。……美佐斗ちゃん、用意できてる?」
「うん」
パタパタと美佐斗は走って、コートとボストンバックを手にした。
「比呂斗くん、本当に世話になったね」
「今度はゆっくり来てください。…………美佐斗、その格好で帰るのか?」
「だって車で帰るだけだもん」
美佐斗は部屋着の上にコートを羽織ると、口を尖らせながらもボタンをきっちりと閉めた。
俺と入れ違いで玄関に下り、片隅に転がっていたあのピンヒールに足を通す。
「ごめんなさい、バタバタして。汚い部屋ですけど、ゆっくりしていってくださいね」
ニッコリ微笑まれて思わずたじろぐ。
「お前が散らかしたんだろ」
「比呂斗だもん」
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