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比呂斗の家の鍵…………。
俺は持っていない。
それどころか、俺は比呂斗の家の中に入ったことさえなかった。
溜め息をついて誰もいない比呂斗のデスクを見詰める。
社長室にデスクがあるのは効率が良いが、一人きりでいるには広すぎる。
夜になり、会食はキャンセルになったと言う比呂斗から電話が入った。
やはりカードキーは比呂斗の家の鍵だと言う。
「お前、それ持ってきてくんない?」
「え?」
「家、分かるだろ?」
てっきり、俺の家に取りに来るものかと思ったから驚いた。
もちろん、秘書だから社長の家の住所は分かるし、比呂斗を送りに玄関までは行ったことがある。
慌てて荷物をまとめ、駆けつける。
すっかり冷え込むようになってきた秋の夜、こんな寒空に比呂斗を待たせたくなかった。
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