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 アイツがいない初めての秋になるか。  いつの頃からか……なんてごまかしても仕方ない。間違いなく中学の頃から好きだった。最初から、ずっと。  うっすらと勘付いてはいた。だが自分の中の群衆に冷やかされるのを恐れ、気づかないふりをした。高校に入ると日常から彼女が消えた。この時から、心がどうしようもない喪失感を訴え始め、俺はいよいよ認めざるを得なかった。学校が違おうが、会うことはできたのだ。それで俺は満たされた。それで充分じゃないかと思った。思ったが、心はそれでは許してくれなかった。  一言目は聞こえていなかった。  二言目は茶化された。  思えばこの時。すでに答えは推し量るべきだったのかもしれない。しかし経験も感性も無い俺では、それに気づくことも予想する事もできなかった。俺は、何もできない。  自らにとどめを刺す言葉を求めた自分を、心の底からバカだったと今は思う。  眩しいほど明るかった夏の日差しがなりを潜め、秋は空が暗くなる。風も快感を伴わなくなり、常に何か忘れて来たような感覚に囚われるのは俺だけか。 「なァにが『過ごしやすい時期になりました!』だ。さみーんだよチクショウ」  黒い雪だるまのように、無様に着ぶくれ上がった友人が隣で愚痴った。今からそのザマで、真冬になったらどうするつもりだ。 「いつまでも夏休み気分でタンクトップなど着てくるからだバカ。だが確かに、今年は冷えるのが早いな」 「昼はこれでヘーキだったじゃねえか。オレは寒いのがキライなんだよ!女の子は露出が減るし早く帰りたがる!」  おまけに声をかける彼女もいねぇと付け加えるこの友人。どうも若くしてオヤジ化が進行している印象が否めない。 「なんで秋ってな、こう、カップルが目に付くんだかな。紅葉狩りやら、秋のスイーツやら。栗ばっかつついてんじゃねぇよ、リスかよ」  夏は海水浴に興じる男女をなじり、冬はクリスマスやバレンタインを悪習と呪う。コイツは叩く相手に事欠かない。に、してもよく喋るヤツだ。口を開けば苦い夏の記憶が蘇るこちらとしては、それが心地いい。
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