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話せ。
「助けてくれたんだよな」
話せ話せ。
「ありがとう」
ここで別れてしまったら、もう二度と彼女には会えない。
「もっと話がしたい! もっと君のことが知りたい! 俺は君に怯えたりなんかしないよ!」
なんとかして彼女を繋ぎとめようとして、
「俺だって、周りの奴らからは気味悪いって言われてる!」
何も考えがまとまらないまま、
「周りにできないことができるから!」
それでも懸命に、
「使い方次第で、人を傷つけることもできる!」
彼女の心に、
「君にできないこともできる!」
話しかける。
「君も同じだ! 使い方次第で人を傷つけることも救うこともできる術があって、俺にできないことができる」
振り向いて欲しくて。
「だから、行かないでくれ………!」
何が言いたいのかもわからない。そんな叫び声を、彼女は振り返らずに、けれど去ることもなく聞いてくれた。
しばらくして。
「―――――――――帰る」
ポツリと、彼女が言う。その言葉に、俺の膝は力が抜けて立っていられなくなり、その場にへたれこんでしまった。
届かない?
もう会えない?
そんな悲しみが俺を襲う。
けれど。
「こんな、こん、な、顔で、あなた、と、話なんで、でき、ない」
しゃくりあげる声に、俺は顔を上げる。
「なら、また、来年! また来年もこの場所で!」
彼女の顔が上下に動く。
そして、耐え切れなくなったように彼女は走り出した。
その背に、
「今度は一緒に――――――!」
俺は、初めて彼女と、『言葉のある約束』をした。
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