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笛の音。太鼓の音。人々の笑い声。これは迷子を捜す声かな。川のせせらぎ。木の葉のそよぎ。対岸の風見鶏の回る音すら聞こえてくる。
賑やかな時間の筈なのに、山側であるこちら側はどこか対岸とは一線を画したかのような不思議な静寂が包んでいた。
俺が一人で蚊取り線香を持ち出しながらもこんな場所にいるのは訳がある。
待ち人がいるのだ。
俺は学校でクラスに馴染めていない。きっと待ち人である彼女もそうなのだろう。
お互いに顔を隠していた。
彼女は狐の仮面。俺は天狗の仮面。
祭りが始まるとどちらからともなくこの場所に来る。
そして祭りが終わるまで二人で過ごすのだ。
その間、二人共口をきかない。
僅かな言葉から自分がどこの誰かがバレるのを怖がったのだ。彼女もそうなのだろう。
お互いが誰なのかもわからない。
もしかしたら隣の席の女子かもしれないし、もしかしたら県外からこの時期にだけ遊びに来ているだけの子かもしれない。きっと向こうもそう思っている。だからそれでいい。その方がロマンがあった。
足音の方に顔を向けて固まった。
彼女の周りには人魂がゆらゆらと漂っていたからだ。
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