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ふふふふふ。固まってる固まってる。
先手必勝のように炎をゆらゆらと私の顔の周りで揺する。私の狐の面も相まって、さぞや不気味な情景に見えているだろう。こんなのは簡単なトリック。子供騙しだ。大事なのはタイミング。どの場所どの呼吸でどれだけ相手の意表を突くことができるか。それが大事なのだ。
去年は不意の大きな音に驚かされた。思わず声を出してしまいそうになったし、二人で座っていた倒木の椅子からも飛び上がった拍子にバランスが取りきれず転げ落ちてしまった。おかげでおめかしにと留めていた髪飾りも外れてしまうし、それどころか浴衣もはだけてしまい、しかも着付けもお母さんにしてもらっていたので、最後の方は肌襦袢の上に浴衣を羽織っているだけになってしまっていた。帰りも恥ずかしかったが、何よりも彼が隣からチラチラと視線を送ってきているのが仮面越しにもわかって、死にたくなった。
この必殺『火の玉太郎』は去年の意趣返しにと私が開発した新技だ。
彼が硬直から立ち直れないようなので、私は少し得意になって彼の隣に腰を下ろした。
彼は気づいているだろうか。
私と彼の座る距離が去年よりもほんの少し、最初に会った頃よりもずっとずっと近くなっていることに。
そうやって彼を意識しながら、彼の隣に座って一拍。そこで不意に私の鼻をくすぐるのは蚊取り線香の香りだった。毎年二人で持ち寄って、先に来た方が線香に火を灯すのだ。
―――と。蚊取り線香の赤々と燃えた先の部分が、ぱちりと音を立てた。
「………………?」
不思議に思って覗き込んだ瞬間、轟、と音を立てて青色の熱さのない炎が私の顔を舐めた。
「――――――!?」
突然の炎の洗礼に、私は思わず声を上げかけ、それを必死に飲み込んだ。声を出さないことに意識を集中した。
そしてそのせいだろう。私の視界はぐるんと急転し、背中と頭が地面へと付き、足は天に突き出されていた。重力に従い浴衣の裾がまくれる。
下着を履いていたからセーフ、とは思えなかった。
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