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気を取り直して、次の仕掛けを準備する。準備が出来たら彼女の肩を叩く。
若干の怒りを孕んだ彼女の目は、俺が作り出した小さな花火によってキラキラと輝いた。
花火は立派な炎色反応だ。火薬を混ぜたそれをばら撒いて、相手に見えないようにその粉塵にライターを近づければ、簡易花火の完成だ。これは扱いに注意しないと、かなり危険。まぁ、俺は慣れたものだけど。
今度は彼女が手を前にやる。すると、川の水がアーチを描くようにこちらに向かって伸びてきた。その綺麗な流線形に感心しながら、俺が懐にある小袋のうちの一つを取り出して中の粉を水のアーチに投げかけると途端に水のアーチは凍りついてしまった。氷のアーチの上に、今度は彼女が粉を塗す。そこに一センチほどの幅の紙を宙に泳がせながら取り出すと、それを放り投げた。落ちてくる紙の端に指を近づけるといつの間にか指の先に火が灯っており、その火が紙に燃え移った。宙をうねりながら燃えているその紙に彼女は、ふぅ、と息を吹きかける。すると紙は宙を泳いでいき、氷のアーチに触れた途端、紙に灯っていた火がアーチに燃え移り、氷も水も一瞬で蒸発してしまった。
彼女も調子が出てきたようで、火を水を風を操って奇々怪々な現象を起こしてくる。
それに合わせるように、俺も彼女の術に合わせて綺麗に見える仕掛けを振りまいていく。
時に虹を作り、時に火文字を作り、時に氷で結晶を作った。
二人だけの奇術合戦は静かに、粛々と続いていた。けれど俺の顔は綻んでいたし、彼女の顔も綻んでいることはわかっていた。
こうして、毎年、俺たちは過ごしていた。
彼女は口に出しこそしないが楽しそうに様々な技を披露して、俺もそれに返すように技を出す。そうしていつものように過ごしていた。
今年もいつものようにすぎると思っていた。
そんな気持ちを裏切るように、大きな音が鳴り響いた。
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