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 彼の返し技は多彩だった。  ともすれば、それに見とれてしまう瞬間も多々あるほどで、私には一体どうやっているのかわからないものも多くあった。しかし、私も負けてはいられない。母さんから授けられた技術や知識を駆使して彼に対抗する。  そんな彼と私の暖かな、秘密の時間。  そこに微かな違和感が混ざる。  地響き。  それは微かなもので、彼には感じ取れていないようだった。  私は彼に注意を促そうとして、一瞬、声を出すのを躊躇ってしまった。その僅かな間隙のうちに、轟音と共に、後ろの山から土が落ちてきた。私は寸でのところで回避に成功する。しかし彼は。彼のいた場所も私たちの座っていた倒木も、背後から落ちてきた土砂に埋もれて見えなくなっていた。  ―――嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ!!  そう思ってみても取り返しはつかない。  私は彼を助けようとして、彼のいたあたりに駆け寄った。幸いなことに、後ろから崩れてきた土砂は本当に土砂だけで、埋もれている彼に木が突き刺さってしまうという最悪の事態は避けられたようだ。  助けないと。  そう思って、  でも、どうやって?  そう思い至った。  私一人の力で彼を掘り出すのには時間がかかる。対岸に助けを呼びに行くのはさらに時間がかかる。その間に、土に埋もれた彼は、窒息死してしまう。  このままじゃ、彼が死んでしまう。  助けないと。でも。死んじゃう。誰か。助けないと。助けて。
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