画図百鬼夜行異聞 『天狗』

１．

　突然の轟音と共に、俺の体は後ろから何かに押し倒された。それが一体なんなのか、確かめようにも体は動いてくれない。かろうじて動く指先が、土をかき分ける感覚があった。
　それで俺は全てを悟る。
　土砂崩れだ。
　口の周りにも土があって、うまく呼吸ができない。それでも、なんとか口を大きく開けずに歯で土を濾し取って息をする。それも満足に吸えたとは言えない。自分の現状を鑑みて、俺は死を覚悟した。
　こんなことなら、彼女の名前を聞いておけばよかったなぁ。
　そんな諦めとも未練ともつかない考えが頭をよぎる。
　しかし、それも束の間で、俺の意識は靄がかかったように曖昧になっていく。
　いよいよもうだめか。
　意識が落ちる寸前、体にかかっていた重圧が嘘のように消えた。
　目を開いてみると、彼女がいた。
　片手を宙に掲げて、仮面をかなぐり捨てて、涙でぐしゃぐしゃの顔を見せながら、彼女がいた。
　そこで俺の意識は、本当に途切れた。