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「今日さ、緒方トレーナーの美容室に行ってきた」
風呂上がりに髪の毛を乾かしていると、
夕飯を作ってくれているヨシが
思い出したようにボソッと言った。
「そうなの? どうだった?」
緒方さんと言えば
奥様がルイの想い人だった人。
何故か、私の問いかけに答えてくれないヨシ。
「オレも、独立とか目指した方がいいのかな」
ヨシは具材を切りながら、独り言のように呟いた。
「そんなに影響されちゃったんだ?」
「まぁ、ね。 自分のサロンを持って、自分の作り出すカラーのサロンを経営できたら、美容師になった醍醐味を感じるのかなって」
「そりゃあ、そうなんじゃない?
みんなそれを目指してスキルを上げていって顧客も抱えるだから」
「深雪もサロン経営してみたいと思う?」
ヨシは切った具材を鍋に入れ込むとグツグツ煮込みだした。
「私は、経営とか考えた事ない。
ルイの専属になりたくて美容師になっただけだし、ふつうに結婚して子供を生みたい」
私はドライヤーを置いてヨシが立つキッチンにあるテーブルの椅子に腰かけた。
「は? 誰の子を生みたいって?」
ヨシが冗談まじりに眉をひそめる。
「誰の子とかは言ってないし!」
「どっちにしろオンナは結婚して家庭に入っちゃうしね。
美容師続けていく人は少ないよな。
俺が美容師になったのは、オンナにモテたいからで、あんまし先の事考えた事なかったからな。
でも、そうも言ってられない年だよ、やべ」
ヨシが冷蔵庫からビールを2つ取り出すと
1つを私に差し出した。
「かんぱーい」
プシュッといい音。
風呂上がりにビール、さいこー。
「そういえば、緒方さんの奥さんもヤバかった」
ヨシが意味深にニヤリと笑う。
私が気になるであろうと察してるかのごとく
もったいぶる。
ルイの初恋だって言っていた女性。
気にならないハズない。
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