第1章

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「今日さ、緒方トレーナーの美容室に行ってきた」 風呂上がりに髪の毛を乾かしていると、 夕飯を作ってくれているヨシが 思い出したようにボソッと言った。 「そうなの? どうだった?」 緒方さんと言えば 奥様がルイの想い人だった人。 何故か、私の問いかけに答えてくれないヨシ。 「オレも、独立とか目指した方がいいのかな」 ヨシは具材を切りながら、独り言のように呟いた。 「そんなに影響されちゃったんだ?」 「まぁ、ね。 自分のサロンを持って、自分の作り出すカラーのサロンを経営できたら、美容師になった醍醐味を感じるのかなって」 「そりゃあ、そうなんじゃない? みんなそれを目指してスキルを上げていって顧客も抱えるだから」 「深雪もサロン経営してみたいと思う?」 ヨシは切った具材を鍋に入れ込むとグツグツ煮込みだした。 「私は、経営とか考えた事ない。 ルイの専属になりたくて美容師になっただけだし、ふつうに結婚して子供を生みたい」 私はドライヤーを置いてヨシが立つキッチンにあるテーブルの椅子に腰かけた。 「は? 誰の子を生みたいって?」 ヨシが冗談まじりに眉をひそめる。 「誰の子とかは言ってないし!」 「どっちにしろオンナは結婚して家庭に入っちゃうしね。 美容師続けていく人は少ないよな。 俺が美容師になったのは、オンナにモテたいからで、あんまし先の事考えた事なかったからな。 でも、そうも言ってられない年だよ、やべ」 ヨシが冷蔵庫からビールを2つ取り出すと 1つを私に差し出した。 「かんぱーい」 プシュッといい音。 風呂上がりにビール、さいこー。 「そういえば、緒方さんの奥さんもヤバかった」 ヨシが意味深にニヤリと笑う。 私が気になるであろうと察してるかのごとく もったいぶる。 ルイの初恋だって言っていた女性。 気にならないハズない。
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