第1章

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「おはよーございまーす」 朝、河井と駒井が同じタイミングで店に入ってきた。 俺は深雪の駅から河井とハチ合わせにならないように 家を早く出たから、河井と駒井のツーショットの現場を見る事はなかったけど 二人同じタイミングで出勤するのは やっぱり疑惑は拭いきれない。 俺としては 二人がデキていたとしても 見て見ぬふりをしていたいし うまくバレないようにやってくれと 店長としての責務なんてどーでもよくなってしまっている。 「おはようございます」 小川さんが遅刻気味に開店ギリギリに入店してきた。 俺より5つ上の深雪の代わりに入ってきた33才のスタイリスト。 既婚者、子持ち。 他サロンで店長を勤めるも、経営不振でサロンが潰れてGrosslyに入社した。 もちろん役職はなく、トップスタイリストでもない。 他サロンで植え付けられたカットスキルの見直しをしている段階だった。 カットテクニックには問題ないものの、デザインを作る感性がGrosslyのカラーと違うから、そこを今俺がチェックしていた。 しかし、 何かと家庭の理由をつけて 練習会に参加せずに さっさと帰宅する。 だからトップスタイリストになるまでのランクアップはまずない。 美容師は30過ぎたら さっさと独立しないと会社からも煙たがられる。 年功序列で、役職つけて割りの良い給料を与えるより そこそこの給料で若い人材を使った方が 会社的には都合がいいからだ。 古い人間がいつまでもサロンにいたら 若い人材が育たない。 だから途中採用は30才以下しか採らないのを 小川は例外で入社してる。 スキルチェックをするにも、 アドバイスすると、イチイチ素直じゃない顔をして、持論で自分のスキルを誇張するから、メンドーくさくなる。 だからもう放っておく事にした。 しかし、勤務態度については 「小川さん、朝の開店準備もあるので開店20分前には必ず出勤してもらえますか?」 一応 スタッフ同士の人間関係の潤滑のために 皆 平等にしている事は守ってもらわなくちゃいけない。 店長という役職もらってる立場上、最低限の責務は遂行しないと。
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