第1章

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冬の昼下がりに。 趣味と実益を兼ねて、家の書庫(といいつつも、元は兄の部屋)に篭って。 あとで目が痛むだろうな、と思うほどの日向で文字を追う。 そういうのは、結構お気に入りだ。 きし。 (あ、家鳴り) 小さな音に、口の端が緩む。 家鳴りが夜中にしか鳴らないなんていうのは、間違いだ。 昼間は色々な音がしているから、聞こえないだけのこと。 静かならば昼夜を問わずに、鳴っているのは聞こえる。 例えばこんな風に、暖房をつけなくても冬とは思えないほどに部屋の気温が上がっているとき。 昨晩の寒さとの差で、家は小さな声を上げる。 家鳴りが聞き取れるくらいに、静かで暖かな午後が、嵩史は気に入っている。 くきゅう。 (あ、玄関) 家鳴りとは違う音に、顔が引き締まる。 かつて自分たちが小さかった頃、階段から飛び降りて遊んでいたせいで床が痛んでしまい、この音は鳴る。 玄関のあがりガマチを上がったところの、一部分を踏むと鳴る音。 うまく避ければいいものを、何故かその部分を踏むのが、普通に家に上がりこんでくる幼馴染だ。 いつものように自分の顔を見に来たんだろう。 何が面白いのか、暇さえあれば、自分の下へ遊びに来る。 相手をしてやる駄賃にコーヒーでも淹れさせてやろう、と、嵩史は本を片手に書庫を出た。
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