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パティが告げたブルックリンのバーは、ダウンタウンの古い建物の1階にあった。 ハルはタクシーを降り、バーの扉を開けて店の中に足を踏み入れる。 店内は若い男女で溢れ返り、外の寒さとは打って変わって熱気に満ちていた。 ハルは人込みを縫うように奥に進みながら、パティの姿を探した。 そして、壁際に立つ彼女を漸く見付けた。 声を掛けようとしたが、口を閉じる。 視界に、両手に飲み物を持って彼女に近付く背の高い男の姿が飛び込んで来たからだ。 最初、ハルはそれがルシウスだと思えなかった。 茶色の髪に青い瞳の、容姿の整った男だ。 パティに飲み物を渡す仕草や、はにかむような微笑が、知性と上品さを感じさせた。 ハルは自分の顔の前に手を翳し、男の目が隠れるようにして、その顔をもう一度よく見た。 すると漸く、サングラスをしていたルシウスと容貌が一致した。
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