付き添い体験

4/6
前へ
/263ページ
次へ
 「あれっ、優香もコンビニ弁当か?」 そう言いながら、孔明さんが隣に座った。 孔明さんが言った通り、お昼の弁当は眠気覚ましのドリンクを購入した時に一緒に準備した物だ。 兄は東京で下宿。 母はすでに他界していたので、父と妹との三人暮らし。 何時もならちゃんとお昼ご飯を用意するけど、今日はうっかり寝坊しちゃて… 結果、こうなってしまったのだった。 家族には買い置きのカップ麺を用意してから慌ててコンビニへと走ったのだ。 開いてて良かった。 そんな思いを久し振りに経験した訳だ。 (孔明さんのことだからきっと冷やかされるな) 私はドキドキしていた。 孔明さんは年下の私にも気を遣うほどのいい人だ。 でも油断しているとからかうのだ。 だから自然と身構えてしまっていた。  「これが終われば動物園だよね。此方もいいけど、あっちも魅力的だね。優香も久し振りなんだろう?」 でも孔明さんはそんなことには触れもしなかった。 気にしていたのは私だけだったようだ。 「本当にそうですね。近所にあっても、普段なかなか来られないから沢山体験しておきます」 私は保育士らしくないことを言ったことに気付いて、思わず口を手で塞いだ。 「今日、私は引率だったんだ。私より子供達を楽しまなければいけないね」 「いや、子供達は保護者に任せて優香も楽しまなければいけないよ」 孔明さんが優しく言ってくれた。 「ありがとうございます」 そう言いながら何気に時計を見ると、シャトルバスの発車時間近くになっていた。  大学生が考えた宇宙に関したクイズもその棟の中にはあった。 参加している子供達に悪いと思いながらも、帰る時間だと言って回った。 その甲斐があって、出入り口にあった段ホールにアッと言う間に使用済み靴カバーで一杯になった。 「何だかこれ、ドラマで良く見る現場検証の時の物に似てますね」 私はそれを外しながら何気に言った。  シャトルバスは動物園とは反対側のバス停に停車してくれた。 子供達の安全を考えたら、終点まで送ってもらうのがベストだって解っている。 駅からの乗り合いバスなら動物園側のバス停が利用出来るからだ。 バス停から信号まで歩きたいけど、かなり先なので横断歩道で手を上げることにした。 歩き始めた頃は車は無かったのだが、モタモタしている内に次々と停車させる羽目になっていた。 image=492928668.jpg
/263ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加