風は柔らかく

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 その頃共に十九歳だった僕達。 僕はキミと学生結婚を希望していたんだ。 今も僕の手元には、あの後で行ったニューヨークの両親の承諾が書かれた婚姻届けがある。 後はキミがサインさえすれば僕達は結ばれる。 だから今すぐ此処に来てほしいんだ。 でももう二人共に二十歳を過ぎたから、その承諾は要らなくなってしまったけどね。  ベッドから抜け出し何気に窓を開ける。 外は小雨だけど、柔らかな風が心地好い。 さっきの夢の幻影さえも吹き飛ばしてくれそうだ。 南側の窓の先の風景を何時も眺めていた。 此処からは見えないけど、其処にはキミの家があるからだ。 でも、キミは一体何処に消えたのだろうか? 僕に不服があるなら、言ってくれても良かったのに……  取り合えず冷蔵庫を開けてみる。 僕自慢じゃないが、胃に何かを入れないと持たないんだ。 だから軽めにつまめる物を用意する。 と言っても、ドリンク意外殆ど入っていないけど。  朝食はサンドウィッチ系パンと骨に良い成分を含んだ牛乳。 それだけじゃ体に悪いってことで完璧野菜サプリをプラスする。 パンは昨日大学の購買部で仕入れておいたヤツだ。 牛乳だけはスーパーで、賞味期限を吟味して買っておくことにしている。 (そう言えばこのパンキミも好きだったな。急に何処かに行こうってなった時、コンビニでキミが選んだんだ) そうだった。 僕はあの日からこればかり食べている気がする。 ふとそんなことを思い出した。 この部屋の至るところにキミとの記憶がある。 この冷蔵庫だって二人で買ったんだ。 実は僕は持っていなかったんだ。 あったのは、叔父が何かの懸賞で当てた冷温蔵庫だった。 冬は温めて、夏は冷やしてくれる優れ物だ。 あまり入らないけど、すぐ近くにスーパーがあるからそれさえあれば必要ないと思っていたからだ。 でもキミと暮らしたかったから、選んでもらったんだ。 僕達は…… 少なくても僕だけは真剣だったんだ。 なのに…… キミは居ないんだ。  何時になくセンチメンタルになった僕は、窓の向こうを何気に見つめた。 その時カーテンが揺れた。 (これも二人で買ったんだったな) 又思い出したキミ…… 僕にとってキミはどうやら掛けがえないの存在のようだ。 ねえキミ…… 本当に何処に居るの? ねえキミ…… 早く来てよ。 僕はもう待ちくたびれてしまったよ。
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