第3章

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都内の高級ホテル… 深紅の薔薇のような家具やカーテンに、豪華なレースのカーテン… 広いスイートルーム… そんなとこから砂浜が見える? 目覚めたばかりの幻? いや、違う。 ドアから廊下に出るときも窓の外は砂浜だった。 考えれば考えるほどわからなくなる。 携帯の着信音が鳴った。 “未来予想図Ⅱ”と言う事は婚約者の反町大夢からの電話だった。 「もしもし…」 あ、オレ、オレ。 明るい婚約者の声がする。 何故か香凛は少しだけ後ろめたくなり、もうほとんど跡も残っていない首筋をなでた。 なんか面倒な事になったんだって? 「うん…次のプロジェクトの支援者の秘書になっちゃった…んだけど…あのね、」 坂上専務に聞いた。すごいじゃん!大金持ちの伯爵なんだろ?えらい美形だ、って女の子たちが騒いでたぞ。 と、冷やかすように婚約者はわらっている。 「でも、でも、あの、あの人ね、」 ヴァンパイアなんだよ…と言おうとしたが声が出なかった。 魔法? 誰にも話せない、って魔法? 香凛の中でさぁーっと血の気が引いた。 マジなんだ… 呑気な婚約者の声が続く。 でもさ、あれだな。香凛にとってもいい経験になるだろう? 坂上専務はやり手だけど外国のセレブの秘書なんてなかなかなれないぜ。 うん、そうだね…、とうつろに相槌をうつ。 どうせ1ヶ月だけだろ? 「そうなの?!」 お前は相変わらずおっちょこちょいだなぁ… 電話の相手が呆れたようにわらった。 伯爵の日本滞在は1ヶ月だってさ。 だから結婚式には問題ないからって…坂上専務がわざわざ謝りに来たよ。 お前、滞在期間も聞いてなかったの? まったく抜けているにも程がある、と大夢はからからとわらっている。 まぁ、あれだ、うちの会社にとっては大事な相手だから… 失敗しないようにな、頑張れよ。 大夢が改まって言った。 わが社にとって大切な相手に見初められた婚約者を持ってオレは幸せだよ。 今夜はゆっくり寝ろよ。 頑張れ、香凛。 そう言うと大夢は電話を切った。 見初められた、かぁ… いや、違う意味で見初められてるんだけど… はぁーっ、とため息をついてもう一度首筋に触れてみる。 もう傷は跡形もなかった。
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