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約束の時間きっかりに流架は迎えに来た。
坂上専務が受付まで見送る。
「なにかありましたらわたくしの携帯にご連絡下さい」
「わかりました」
流架が坂上専務の手書きの携帯番号の書かれた名刺を受け取りながらわらった。
「森山くんもしっかりね」
香凛は専務の携帯番号を知っている。
「はい、頑張ります」
1ヶ月だけ我慢すれば解放される。
流架との事は誰にも話せないが、夕べの大夢との電話は香凛の困惑や畏怖、それらを押さえ込むには十分だった。
1ヶ月だけ…
黒塗りの外見に似合わず深紅の内装のリムジンに乗り込んでも坂上専務は会社玄関を離れなかった。
坂上専務、明日も会えるのに…
香凛の心の中を見透かした様に流架がわらった。
「香凛、明日からこっちには出勤しなくていいですよ」
え?
「私のホテルに部屋を用意しました。あ、もちろん別のフロアーですが」
はぁ?!
「私の仕事は時間が不規則ですからね。24時間勤務だと思って下さい」
えぇーーーぇーーっつ!!??
「婚約者には坂上専務から話してもらっています」
ちょっとなに?勝手に?!
「着替えや身の回りの必要な物はホテルの部屋に用意してあります」
足りないものがあったら言って下さい、としれっと言った。
香凛のなかでふつふつと怒りが込み上げてくる。
おそらく怒りで真っ赤な顔をしていたのだろう。
「どうしました?香凛?」
「そんな、そんな…勝手に!なんで?!」
怒りで仕事用敬語などどこかへ行ってしまった。
「あなたの国では知りませんが私の国ではそう言うの、パワハラって言うんです!!」
「坂上専務があなたの婚約者、ご両親には了解をもらっています」
しれっと流架がわらう。
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