第2章

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「そんなに私はあなたの婚約者より劣っていますか?」 香凛の両手をその冷たい手で包み込むと優しくくちびるをあてた。 「流架…」 振りほどこうとしたが、相手の力が強すぎた。 「あなたも…私を愛して下さい」 指先から手首、腕、首筋…とゆっくり登ってきた赤く冷たい唇はそのまま香凛の唇にかぶさった。 「ん…」 今まで経験したことの無いようなキスだった。 特に乱暴にではなく、誘うように唇と同じ冷たい舌が香凛の口に入ってくる。 「や、っ…ん…」 何故かわからないが、嫌ではなかった。 婚約者のキスよりなぜか心地よかった。 流架の冷たい手が首筋から肩に直に触れている。 手が直に触れる、と言う事は… 香凛は力いっぱい流架を突き放した。 スーツのボタンが半分はずれている。 「香凛…」 「だから…わたしは婚約者がいるの!」 両手で胸元を合わせながら必死に抗議した。 「あなた、私のキスを嫌がってはいませんでしたよ?」 「それは…」 図星をつかれた…! 「正直になりなさい。本当に嫌なら逃げなさい」 くすっ、と流架がわらった。 と、思ったら折れそうな位の力で抱き締められた。 「香凛…」 噛みつくようにくちびるを奪われる。冷たい指先が胸元をはう。 ブラジャーの中に細く冷たい指先が侵入してくる。 香凛はもう、抗う気すらなくなっていた。 それほどに、流架のキスは官能的だった。 身体中にキスをし、軽く噛み傷をつけ、しかし、それだけで流架は香凛を解放した。 「抱きはしませんよ…」 安心させるように流架がわらう。 「さぁ、もう終業時間です。おかえりなさい」 スーツの胸元を直しながら優しく額にキスをし、お姫さまだっこで香凛をベッドから下ろすと流架はドアに誘った。 何事もなかったかの様な流架の態度に香凛も、何事もなかった様な気がしてくる。 ドアを出るとそこはどこかの高級なホテルの廊下だった。 スイートかなぁ? それにしても豪華な部屋だった。 エスコートしてホテルのロビーまで送りながら流架が言った。 「明日、10時に迎えに行きます」 あなたは私の事や、ここであったことすべて覚えています。 でも、人に話すことはできません。 そういう魔法がかけてあります。 え? 極上の笑いでその問いをはぐらかすと 「また、明日会いましょう、香凛」 と、ホテルの玄関で香凛を見送った。 しばらく歩いて振り返るとそこは都内の有名な高級ホテルだった。
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