scene.2

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水を差すようで申し訳ないのだが、これはきっちりと聞いておかねばなるまい。 「コスメのCMがなぜ俺に……?」 「だからナナセなんじゃない?」 「いや意味がわからないです」 「打ち合わせで詳細の説明があるよ。僕ら事務所側も二つ返事で了承してるから細かーいところまでは聞いてないんだよね。何よりこんな話題になりそうな仕事が舞い込んできたことに喜びすぎてあまり覚えていないというのが正直なところだ」 なんだそれは。 『正直なところだ』なんてかっこつけた言い方したところで俺は騙されないぞ。 「そんな変な顔しない、スマイルスマイル! この事務所はナナセが稼ぎ頭なんだよ、エースが良い仕事をするのに喜んで何が悪い!」 「それは話のすり替えです」 「ナナセー」 いい年してるくせに、喜本さんはたまにこうして捨てられた子犬のような顔をする。今にもクーンだかキューンだかと鳴き出しそうだ。 スカウトされたときからこの人に世話になり続けている俺は、こういうときとても弱い。 それに、どんな内容のものだったとしてもこれだけの仕事を受けない理由はない。 どっちみち結果は同じだろうという喜本さん達の考えもわからないでもなかった。
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