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ここは閑静な住宅街の一角にある、ごく普通の一軒家。
その家からは、まだ産まれたばかりの赤ん坊の泣き声が聞こえている。
「んぎゃんぎゃ」
しんと静まり返る夜半過ぎ、まだ起きていた赤ん坊の母親は、我が子の夜泣きに気が付き、赤ん坊の眠る部屋に足を踏み入れ電気のスイッチに手をかけた。
「きゃー!何してるの!?いやぁ止めてー!!」
明かりの点いた部屋の窓は開いており、秋の冷たい風が吹き込みカーテンを揺らしている。
そして、赤ん坊の眠るベビーベッドの傍には見知った男が赤ん坊に手を伸ばして立っていた。
その手からは血が流れ落ち、赤ん坊の口を赤く濡らしている。
母親の悲鳴を聞き付けた父親が部屋に駆け込むと、長い前髪から覗く右目を怪しく光らせ、ニヤリと上げた口角を隠しもせずに男は笑う。
「君にはがっかりだよ」
独り言のように呟かれた男の言葉は、誰の耳にも届かない。
その夜、夫婦は遺体となって隣家に住む父親の両親によって発見された。
唯一の証人は、まだ産まれたばかりの赤ん坊ただ一人。
犯人に繋がる証拠は一切残されておらず、事件は迷宮入りになった。
この日は、真っ赤な月が出ている夜だった。
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