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町に戻る間、二人は幸せな気分だった。が、
「ねえマリア、マリアはZENNさんの彼女見たことある? 」
「ないよ。俺みたいな下っ端が、拝ませてもらえるわけないだろう。」
動揺を隠すのに必死だった。
「でも、おうちには何回かお邪魔してるんでしょ? 」
「うん。でも、一人暮らしなんじゃないかな、ZENNさんは。どうしてそんなこときくわけ? 」
「あれ、マリア知らないんだ。ZENNさん彼女と別れたんだって。ハーフの、すっごい人気のあるモデルさん。テレビや週刊誌が騒いでたけど…」
「ZENNさんも何かと大変なんだな。」
平静を装いながらも、マリアの胸は波立っていた。ZENNにこれまで愛する女性がいたこと。でも、別れてしまったのなら、自分が独占できるのだろうか…
「ごめんね、マリア。仕事のこと、思い出したんでしょ。事務所までだって遠いのに、今日はこんな時間まで…」
「何言ってんだよ。もう俺、今日は幸せだからいいよ。」
あわててマリアは笑顔を作った。
「でも…メジャーと契約して、契約金が入り次第、引っ越しはしようって、みんなとは話してる。」
由真の体が、びくっ、と動いた。
「…マリア、町から出て行くの? 」
「…あ…うん…」
彼女の口調の切実さは、予想していたとはいえマリアも困った。
これまで通り遊びにおいで、では軽々し過ぎた。
でも、一緒に暮らす…決心はもちろんついてはいなかった。
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