第5章

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 が、ZENNと初めて「仕事」をするスタジオに入った途端、そんなことは忘れてしまった。  初めてのプロの仕事場は、緊張感でいっぱいだった。ヘアメークは半沢だった。 彼の手にかかれば、夏のツアーで疲れ切ったマリアの肌も、輝くように見え、ZENNの注文どおりリキッドのアイライナーで丸く大きく瞳をかけば、ふるいつきたくなるような妖しい堕天使の出来上がりだった。  マリアの衣装はベルベットの、見た目には重量感のある黒のドレスに、黒の天使の羽根をつけられたもので、少しでも体を動かすたびにこの羽根がじゃまになった。  が、オーガンジーのように軽そうな白の衣装のZENNは、同じような白の羽根をどうこう言う素振りもない。気をつけてはいるもののマリアは、自分はまだまだだということを思い知らされた気がした。  撮影に入る時は気持ちの切り替えは済んでいた。  今日のマリアの現場立ち会いは事務所の社長の永山だったが、彼には、相手がZENNだということを忘れていつも通りにやればいいと言われていた。 事前の打合わせではカメラマンから、自分が主役の撮影と思うようにと言われていた。そうでないと主役のZENNの迫力に負けてしまうから、と。
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