第1章

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「省吾。お前もう一度矢野のところに行ってこい。」 「なんで……!」 「行ってケジメつけてこい。」 「…………。」 「ちゃんと正直に自分の気持ちを伝えて振られてこい。そしたら俺が慰めてやるから……。」 俺は自分の弱虫はひた隠しにして、省吾に男を見せろと言った。 すると、 「嘘ばっか。……お前もうすぐ居なくなるじゃないか。」 ムッとして省吾は眼鏡の奥の視線を他所に向けた。 「そんなすぐには家を出ていかねぇよ。まだこっちにいるし。帰ってくるし。」 「ハッ!それも嘘だね。 俺が好きになるもんは絶対必ず居なくなるんだ! 母さんも、先生も、晃君も! 夏輝も絶対帰ってこない!」 晃君か……。懐かしいな、おい。 たしか省吾の初恋の君か?たしかあれは小3だったか? 初めてのトキメキを仲良しのクラスメートの男子に感じて、いつも話を聞かされていたんだっけな。 四年の進級の時に残念ながら晃君は転校してしまったんだが──。 と、しばし俺の脳内は過去に記憶が遡った。
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