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そんな私の心を見透かすように、桜さんは小さく笑って、首を横に振った。
「私、焦ってたんです。これまでずっと彼に支えてもらっていたのに、何も返すことができなかったから。だから、結婚して、これからはちゃんと恩返ししていこうって思って……でも結局、傷つけてしまいました。彼の優しさに甘えてたんです」
「桜さん……」
強いな。私はそう思った。
私なら、優しくしてくれる人が傍にいたら、寂しいという理由だけで結婚を決めてしまうかもしれない。甘えるのは簡単だから。辛い現実と向き合うよりも、誤魔化しながら一緒にいる方が、ずっと楽だから。
「気づいていたのに黙ってて、ごめんなさい。焦って結婚しようとした自分が情けなくて、でもどうすればいいのかわからなくて……」
桜さんはいきなり、ガバッと頭を下げた。細い肩が小刻みに震えている。
「い、いえ、そんな。謝らないでください……っ!」
私はたじろぎ、両手をアワアワと振って落ち着かせようとする。
私だって二人が破局すればいいのにと密かに願っていたし、なんてことは、口が裂けても言えない。
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