第五章 《恋に欺かれ、恋に傷つき、それでも人は恋をする。》

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 そんな私の心を見透かすように、桜さんは小さく笑って、首を横に振った。 「私、焦ってたんです。これまでずっと彼に支えてもらっていたのに、何も返すことができなかったから。だから、結婚して、これからはちゃんと恩返ししていこうって思って……でも結局、傷つけてしまいました。彼の優しさに甘えてたんです」 「桜さん……」  強いな。私はそう思った。  私なら、優しくしてくれる人が傍にいたら、寂しいという理由だけで結婚を決めてしまうかもしれない。甘えるのは簡単だから。辛い現実と向き合うよりも、誤魔化しながら一緒にいる方が、ずっと楽だから。 「気づいていたのに黙ってて、ごめんなさい。焦って結婚しようとした自分が情けなくて、でもどうすればいいのかわからなくて……」  桜さんはいきなり、ガバッと頭を下げた。細い肩が小刻みに震えている。 「い、いえ、そんな。謝らないでください……っ!」  私はたじろぎ、両手をアワアワと振って落ち着かせようとする。  私だって二人が破局すればいいのにと密かに願っていたし、なんてことは、口が裂けても言えない。
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