第1章

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「なんでって……。」 理由とか言えるか。 女とは経験あっても男とか童貞に等しいのに。 こいつはビキナーのそこんとこの気持ちを汲んでやろうというの気はないのだろうか? 「夏輝、あの日俺を慰めてやるって言ったのに、あれはウソだったのか? 俺、先生とちゃんと話してケジメつけてきたぞ?」 すがるように俺を見つめる省吾の目には、卒業式の日を思い出したのか潤み始めている。 「ごめん。ウソつくつもりはねぇんだけど……ちょっとな。」 その顔を見るのが嫌で、俺は誤魔化して省吾の身体を抱きしめた。 省吾の欲求に答えたくないわけではないのだが、いざとなると踏み込めない自分がいる。 キスする時も抱きしめる時も、頭の隅でチラリと過る矢野の顔がうざったらしくて素直に先へ進めない。 矢野に長く片思いをしていた頃の省吾の気持ちを見て、知っていただけに、いざ自分に関心を向けられたら足がすくんでしまう。 (自信がないのか?) 自信───。無いかもしれねぇな。 『幼馴染み』の自信はあっても、こいつに『好かれている』自信はまだ無いのかもしれない、と自問自答する。 矢野に目一杯惚れてたコイツを俺は知っているから、なんだか勝てる気がしない。
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