第1章

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***** 東京へ発つ前日の夜、省吾は駅まで見送りに行かないからと言ってうちへ来た。 「夏輝、ゴールデンウィーク帰ってくる?」 「どうかな。交通費もかかるから夏休みまで帰らないかもしれない。」 「……そうか。」 ツンと澄ました顔をしてパーカーのポケットに手を突っ込んだまま省吾は部屋のまん中でぼーっと突っ立っている。 「つか。お前その格好寒くないのかよ。」 「別に。」 緑のフード付きのジャージパーカーを頭からかぶりジッパーは首元までキッチリしめ、体温を逃がさないよう上半身は完全防備しているが足だけは短パンと素足だけとか。 変な出で立ちだ。 「来るとき寒くなかったんか?」 「隣なんだから来るまでの距離とかたいしたことないよ。」 そう省吾は俺に答えて人のベッドに腰かけると枕元の周りの小物を弄りだした。 俺の家と省吾の家は隣同士で、玄関開けたらお互いのうちの中が丸見えというくらい近い距離に並んで建っていた。 だから家にいたときの部屋着のままで出てきたんだろう。
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