レンズの奥の、その瞳

6/11
732人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「そんな訳あるかーっ!」 また、からかわれたのだと気付き、メガネを掴んでる手をその胸に押しやった。 「そんな話聞いたこと無い!馬鹿じゃないの?」 真っ赤な顔で鼻息荒く言うわたしと対照的に、 「環さんが知らないだけです」 表情一つ変えずに、メガネを掛け直して車を発進させた。 いつもからかわれてばかりで、面白くないわたしは。 「・・・」 膨れたまま、流れゆく街の景色を眺めていた。 『お前はそう言うところが、可愛くないんだ』 元彼の言葉が頭によぎる。 海外転勤に着いてきて欲しいと言われ、即答出来なかったわたしを置いて。 二股相手の可愛い彼女と、さっさと日本を発った男。 可愛くないなんて、昔から言われ続けていたから。 何とも思ってなかったけれど。 可愛い女なんて、どうやってなれば良いんだろうか。 その術(スベ)を、わたしは知らない。 落ち込みかけたわたしの耳に、クスッと笑う声がした。 「環さんは、可愛いですね」 見る見る間に、頬に熱が籠る。 「環さん?」 顔をそむけたままのわたしの頬を、彼の手の甲がなぞってゆく。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!