レンズの奥の、その瞳

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名を呼ばれ、差し出されたその手を。 なんの躊躇も無く取ってしまった。 「行きますよ、次の現場に」 撮影道具の入った重そうなカバンを、軽々肩にかつぐ。 無造作なボサボサ頭。 黒縁の、プラスチックのメガネ。 その奥にある瞳が、優しく細められた。 「環さん。もしかしてオレに見惚れてます?」 今度は意地悪く光る、瞳。 「自意識過剰!馬鹿じゃないの!?」 「真っ赤な顔で言われても」 余裕の態度で、クスリと笑われた。 「年下のクセに生意気なんだから!!」 憎まれ口を叩いて歩き出す。 手は。 繋いだままに。 彼とはこれでもまだ、同僚の距離を保っている。 夏に2人で祐輔君の実家のある町に、取材に行った時。 二股かけられた挙句、フラれた話をしたら。 『馬鹿な男ですね』 そう言って、頭を撫でてくれた祐輔君。 『仕事を取るって、即答出来ないほどに想われていたのに』 わたしは。 彼のその言葉に、救われた。 「なんだ、お前ら。夏以来やけに親密だな」 机に頬を着いて、編集長がニヤニヤ笑う。 「ウルサイ!!」
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