732人が本棚に入れています
本棚に追加
名を呼ばれ、差し出されたその手を。
なんの躊躇も無く取ってしまった。
「行きますよ、次の現場に」
撮影道具の入った重そうなカバンを、軽々肩にかつぐ。
無造作なボサボサ頭。
黒縁の、プラスチックのメガネ。
その奥にある瞳が、優しく細められた。
「環さん。もしかしてオレに見惚れてます?」
今度は意地悪く光る、瞳。
「自意識過剰!馬鹿じゃないの!?」
「真っ赤な顔で言われても」
余裕の態度で、クスリと笑われた。
「年下のクセに生意気なんだから!!」
憎まれ口を叩いて歩き出す。
手は。
繋いだままに。
彼とはこれでもまだ、同僚の距離を保っている。
夏に2人で祐輔君の実家のある町に、取材に行った時。
二股かけられた挙句、フラれた話をしたら。
『馬鹿な男ですね』
そう言って、頭を撫でてくれた祐輔君。
『仕事を取るって、即答出来ないほどに想われていたのに』
わたしは。
彼のその言葉に、救われた。
「なんだ、お前ら。夏以来やけに親密だな」
机に頬を着いて、編集長がニヤニヤ笑う。
「ウルサイ!!」
最初のコメントを投稿しよう!