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ほんの少しだけ、ドキドキしながら。
両手で彼のメガネを外した。
(睫毛、長いなあ)
その瞼の奥の瞳は、優しいだけではなくて。
カメラのファインダーを覗く時の真剣な眼差しは、獲物を捉える鷹のように鋭い。
「環さん」
伏せた瞳を開いた彼が、下から見上げるようにわたしを見た。
「それ、ガラスなんで落としたら割れます」
「え、そ、そうなの?」
彼の瞳の強さにたじろぎながら。
メガネの弦を握る手に、思わず力がこもる。
「異性のメガネを外す意味、環さんは知ってますか?」
「し、知らない」
何か意味なんてあったっけ。
「俯かないで・・・」
助手席のシートの背に腕を回し、空いた手でわたしの頬を撫でる。
俯きかけた顔は、あっさり彼の方に向けられてしまった。
吸い込まれるように彼の瞳に囚われてしまい。
ゆっくり顔を傾けながら近付く彼の、端正な顔を眺めていた。
「キス、していいですか」
---キスシテイイデスカ
彼の言葉を頭で反芻してると。
「返事が無いのは、了承ですね」
顔を真横に向けて、彼の長い睫毛が伏せられた。
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