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現皇帝には今、ふたりの妃がいる。
ひとりは董家当主の孫娘、もうひとりは叔父の娘。
そのふたりの後宮での争いこそが、事実上の政争であった。
本来であれば、そこにいるのはあたしのはずだった。
しかし、今はもうあきらめた。
ここに来たばかりの頃は、いつか彼が迎えに来てくれることを夢見ていた。
はっきりと婚姻の約束をした覚えはない。
でも彼の妃となることが夢だった。
ここへ来て、忙しくて、恋なんてする暇もなかった。
だから、彼との恋があたしにとっては唯一の恋。
美しい思い出として浸ってしまっても仕方あるまい。
彼は今、どんな風になっているのだろう。
ひとつ年下だった彼は、もう今年で18。
立派な大人だ。
どんな顔であたしのことを見つめるのだろう、どんな声であたしの名を呼ぶのだろう…。
いろんなことを考えた。
もう、その顔を見ることさえ敵わないような、遠い人になってしまった彼のことを、毎晩床の中で考えた。
彼の名は神玲玉(しんれいぎょく)。
彼こそがこの仙龍国の皇帝だった――…
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