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「うん、もう行かなきゃ」
幼い頃から医者に憧れていた彼は、今街外れの療養所で医者見習いをしている。
その医者はこんな貧しい者の溜まり場に療養所を建てているくせに、莫大な治療費を請求するような金に汚い医者として有名だ。
その上見習いの扱いもひどいようで、浪嵐も朝早くから夜遅くまでこき使われているようだった。
それでも、今のあたし達にはその不当な扱いに歯向かうすべもなかった。
「いってらっしゃい」
そう手を振ると、彼は右手を上げて家を出ていった。
その後姿を見送ってから、あたしは中に入り、家にひとつしかない部屋の中央に敷かれた布団へと近寄った。
そこに横たわるのは顔色の悪い女性。
母と言ってもおかしくない年の女性だ。
実際、あたし達は親子として7年間過ごしてきた。
でも、本当は違った。
彼女の名前は明珠(めいしゅ)。
長い間あたし達に仕えてきてくれた侍女である。
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