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その薬は浪嵐の師である医者の所から貰っていた。
お金は――あるわけがない。
なけなしの給金と、借金をして出していた。
それも、こんな貧しい者にまともな人が金を貸してくれるわけがない。
金を借りていたのはこのあたりでも有名な高利貸しだった。
不当な請求。
それはわかっていた。
でも、これ以外に方法がなかったのだ。
「あたしも、お仕事行くわね」
明珠が床に就いたのを見て、あたしは家を出た。
邸にいた頃は、こんな生活を強いられる者達がいることを知らなかった。
食べるものもままならない、そんな人々がいるなんて思いもしなかったのだ。
その成長期にまともに食べることが出来なかったこの体は、年ごろの娘に似合わずひどく痩せている。
水仕事で荒れた手を見ては、昔は白くてきれいな手だったのにと思った。
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