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土曜日の午後、私は寄り道せずに帰った。珍しく土曜日の午後から休みになったお父さんがリビングでテレビを見ていた。
『お父さん、隣に行ってくるから』
『あぁ、松本さんが一緒なら安心だしゆっくりしておいで』
お父さん・お母さんは今までの一見から松本さんに絶大な信頼をしているらしいけど。
『お父さん、今日は藤永さんがケーキ食べにきてって誘われたの』
『あぁ、漫画家の。女の人だからまぁ良いだろう。行っておいで』
どれだけ松本さんを信頼してんだか。
『待ってたよ~』
と上下スエットの部屋着におだんごヘアにした藤永さんが迎えてくれ、お邪魔します…とばかりに部屋に入る。
『人を招待する部屋じゃないよね(焦)吉井さん…美和ちゃんで良い?ケーキ食べにきてって言ったものの、掃除苦手で…部屋の物全部向こうに押しやってる訳でぇ~、恥ずかしいわっ』
『締め切り後は仕方ないです』
『ううん、いつも散らかってて家族も友達も担当も呆れてて…まぁしゃあないかって諦めてるしぃ』
『忙しい職業だし』
『片付けようと思うんだけど逆に散らかってさ』お手上げっ、とばかりに肩をすくめ私にケーキをすすめてくれる。
『いただきます』
『あの時、助かったんだ~。こんな部屋だから肘が当たってインクは全部こぼしちゃってね』
『私も時々やります』
『必死に描いてると周りが見えなくなって、インクを置いた場所さえわかんなくなってさ』
『締め切り前だからわかります』
その時…藤永さんの携帯が鳴り藤永さんが会話を中断し話をする中、私はオレンジジュースを飲んで何気に目に入る部屋を眺めていた。
『えっ!高校の写真?…すぐにはわかんないよ。2~3日待ってよ』
そう言い藤永さんは話を終えた。
『担当からなの。漫画家の高校時代はこんなんだった…みたいな特集をやるんだけど、聞いてのとうりあたしの高校の時の写真が必要なんだって』
『雑誌の企画の?』
『そう、K出版から出てるフレコミフレンドよ』
K出版!知らないはずかも!私S出版の雑誌しか読んでなかったから。
藤永ゆう…今度コミックス探してみよう。
藤永さんがケーキも食べずに困っているのを見て私は言ってしまった。
『掃除手伝います』…と。
この言葉が後々、美和のサクセスストーリーにつながるとは美和も誰も知らなかった!
『良いの!?』
と嬉しそうに言ってケーキを食べ始める藤永さんだった。
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