《第2部・第1章》

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『まぁまぁ、大家さんっ、今日は聞かないであげて下さい』 と2人と私の間に立った松本さんが、落ち着いて!と言わんばかりに2人を制する。 『松本さん、あなたが美和を助けてくれたんですか?』とお母さん。 『大家さん、あたしはただミエルメガネに連れて行っただけで何も』 『いやいや、松本さん。わたしら2人いない時間に本当にありがとう』とお父さん。 『とんでもないっ、頭を上げて下さい。』 深々と頭を下げていたお母さん・お父さんは言われるがまま顔をあげ松本さんに握手した。 『あらぁ、照れるわね(笑)ミエルメガネまで連れて行っただけで(焦)』 ミロが松本さんの足にすりより、にゃ~と鳴く。抱き上げながら嬉しそうに笑って『猫ちゃんまでお礼言うとは思わなかったわ』とキュッと抱いて私にミロを返してくれた。 『じゃ、あたしはこれで』 すぐそこなのに私らみんな松本さんの車がマンションの駐車場に入るまで見ていた。 『ミエルメガネって…』 『まぁまぁ、お母さん松本さんの言うとうり今日は聞かないであげよう』 『わかったわ、美和、風呂に入りなさい。そしてご飯食べて、しっかり寝るのよ』 静かな夕食だった、テレビの音とカチャカチャと時々音がする食器の音だけの食卓。 部屋に入り、カバンからティーンズの袋とまだ半分残っている個包みのミルクチョコレートを出して眺め…テーブルに置くと布団に入った。 【制服に似合うかと思って】… 【喋りたくなったらいつでも来なさいね】… なんで松本さんが? 嫌いだけど…今はその気持ちはオブラートに包んで考えないようにしないと、気持ちが混乱しそう。 だけど…その優しさに自然と涙が溢れ枕を濡らした。 【見返してやんなさいよ】… 今日、掃除は頼まれなかったけど… いつだったか整理した棚をみんな見る事なく…ふざけ合いのはずみで台無しになってしまった事に… ふざけ合いのはずみでメガネが落ちて誰も気づかいをしてくれなかった事に… そして今まで我慢してた悔しさが…松本さんの前で涙となりそうな瞬間をも我慢してた… 【見返してやんなさいよ】 眠る前に浮かんだ言葉だった――。
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