◇戻れない道◆

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目をぎゅっとつむって、 祈るように次の言葉を待っていた時、 トゥルルルルル―――… 私達の仲を裂く様に先輩の携帯が鳴った。 たぶん、ジーンズの後ろポケットに入っている。 「…………」 「…………」 トゥルルルルル―――… トゥルルルルル―――… 二人とも動けないでいたけど、渡り廊下で鳴るコール音はやけに響いて耳につき、無視するというわけにはいかない。  先輩も同じことを思ったのだろう。 私を抱く腕をゆるりと離して電話に出た。 「はい…。 …え? 晶が…?」 晶先輩の名前を聞き取り、この場を見られたかのような焦りが噴き上げた。 でも、そんなものよりも、 「……わかりました。すぐに行きます」 追うようにやって来た刃のような台詞に私の胸は瞬時に貫かれた。 これが、現実。 桜木先輩は、私より晶先輩を選ぶ。 先輩は通話ボタンを終了させ、私に向きなおり、 「ごめん。後でロビーに来て? もう一度、話そう」 携帯を握ったまま、私の両手をそっと取った。 差し迫った表情は、晶先輩の身に何かとんでもない事が起こったのかもしれない。 すぐに駆けつけるのは、人として当然だ。 そんなことは頭ではわかっている。
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