◆届かぬ思い◇

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その時、バイブにしていたスマホの振動が体に響いた。 眠っている舞ちゃんをそっと壁側へもたせかけ、デニムの後ろポケットから取り出して画面を見ると、鈴木だ。 ホテルを出る前にメールしておいたのに、今頃何の用だろう? 訝しく思いながら通話ボタンを押し、耳にあてた。 『笹田か? 今、話、大丈夫?』 『ああ、』 『運転中じゃないのか?』 彼女が起きないように声を抑えて答えないと。 『ああ、その…、いろいろあって、今、ちょっと休憩中なんだ』 ん……? 何だ? 空気がこすれるような雑音が入ったぞ…? 『突然すみません、桜木と言います』 突然声の主が変わり、しかも例の“桜木”という人物で。 スマホを持つ手に力が入った。 『舞と、話がしたいんです。代わってもらえませんか?』 憔悴しきって眠っている舞ちゃんに目線を移すと、急に怒りが沸いた。 今、電話の向こう側にいる相手は、彼女をこれほどまでに乱れさせた憎い男……
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