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その男は非常に擦り切れたボロを着ていた。
背丈は市井の者と変わらなかったが体つき
に関してはその躰を覆ったボロのせいでよ
くわからなかった。
齢は恐らく三十ほどで肌は煤にまみれ履い
ている物もくたびれた革靴であった。
また左手には農作業で使うのであろうか、
刃先のこぼれた大鎌を持っていた。
一方右手には托鉢修道会の僧侶が持つような
小さな鉢を携えていた。
男の顔の周りには蝿や蚋が忙しなく飛び、
ぼさぼさの頭髪からは甘いような酸っぱい
ような衛生上芳しくないにほひが立ち込め
ていて男自身の不気味な雰囲気とあいまっ
て、そこもとの住人に近寄りがたいという
印象を持たせるのに十分な有様であった。
男の歩く道は酷くぬかるんでいる。
辺りは泥濘に濡れ塗れて、それが草木や人畜生の死骸を厚く覆っていた。
男の他に誰も通らぬその道には深く抉れて水の溜まった車輪の跡と彼自身の足跡しかなかった。
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