第3章 来たれ体育祭

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「ちょっと僕のバッグ持ってて! 自転車取ってくるのだよ!」 自転車? そんな疑問を抱いてからわずか一、二分で、沢村さんが自転車に乗って颯爽と登場し、キキーとブレーキ音を響かせました。本当に家近かったんですね。 「待たせたのだよ。さあ、行こう!」 自分が預かっていたバッグをカゴに入れ、ペダルに足を掛けた沢村さんに聞きます。 「え、ど、どこにですか?」 「山田君の練習に! 僕もついてってあげるのだよ!」 「自転車でですか?」 「うん!」 …………。 「え? 自分は走りで、沢村さんは自転車でですか?」 「うん! あなた働く、僕が楽する!」 それなんてトイレ洗浄剤っすか! 心の突っ込みなど露知らず、沢村さんが続けます。 「ほら、早く! 本番まで時間は少ないのだよ!」 そう言うと、沢村さんはその華奢な体を前傾させ、立ち上がって全力でペダルを回し出しました。 晴れやかな初夏に吹く爽快感溢れる風が、立ち漕いで左右順番に揺れる肩と癖のかかった短髪とぶつかり、自分の元に届いたときには、もはやそれをただの風と言うことは出来なくて。 ────これが青春の香り ぬわわわわーん? 急に自分の心の奥に変な感情が生まれてきやがりました。 ドキッと胸が高揚するようなものでありながら、しかしそっと優しくも虚しくも感じれるような一面も持っていて、なんでしょう、この感情の名前は自分は知らないですね。 それに、そんなノスタルジックに物事を捉えるような性格でもキャラでも無いですしね。自分で自分が恥ずかしくなってしまいました。 「ん? どうして笑っているのだよ?」 「え?」 そうして気付いたら笑っていました。まあ、いいや。どうせ今考えてなにかなるようなものでも無さそうですし。 「ほら、行くのだよ!」 とりあえずは、いま目の前の風に必死で抗ってみますかね。そう思って自分の足を動かしてみました。 「今行きますよー……て、沢村さんはやっ! もう見えない!?」 これがとんでもない景色に繋がってるなんて思いもせず、俺はただ苦笑いと共に走ることしか出来ませんでした。
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