第1章 彼女と世界と怪獣と。

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 さすがに超能力をもってしても、放射線を無効化する事は不 可能だった。シールド能力をどれだけ駆使したところで、対応 しきれるものではない。 《後、もう少し……ハイドラ、お願い、頑張って》  その間、愛梨は増幅されたテレパシーを使い、邪龍の神経系 の切断に挑戦していた。  ありったけのサイコエネルギーを、邪龍の、まるで鋼鉄の様 な神経系に流し込む。この力が使えるのも、神龍機と融合して いるからこそである。  ハイドラ、ガイアの二対によって引きずられ、さすがの邪龍 も徐々に下方に降り始めた。二体はそれぞれ邪龍の首に咬みつ き口から光線を吐くのを阻止している。  残り1本の首が光線を吐こうとするが、自分の首が邪魔にな り、ただ鳴き声を上げるだけだった。 《そろそろ仕上げるわよ。愛梨……って言ったわよね?こいつ を海上まで移送出来るかしら。これだけ弱まれば、あ なたの機体なら運べるでしょう。その子、出力でかいんだから》  《えっ?ここで仕留めるんじゃないんですか》  早苗からの通信。思わず聞き返す。 《馬鹿言わないの。あいつの体内に溜まってるエネルギー、 どれくらいか解る?溜まりに溜まったエネルギーが暴発した場合、この都市全部が吹っ飛ぶのよ》  呆れかえったような早苗の思念。愛梨は自分の分別の無さを 恥じた。  愛梨の思考が凍り付く。破滅の光景が、精神の中でリアルな 映像として認知される。決して現実にしてはならない、可能性 の未来としての、一つのビジョン。 《あ……》 《もっともそうなれば、海上に出てみたところで、単に気休め かも知れないけど》  冷ややかに笑う早苗の姿を感じた。  邪龍を抱え込み、ハイドラ達がバーニアを全開にして海上に 向かっていたその時、更なる異変が発生した。  神龍機内部で精神体と化した愛梨達が急激な「痛み」を感 じ、超能力を思うようにコントロール出来なくなったのだ。  意識が何度もブラックアウト寸前になり、神龍機のコントロ ールまでがOFF状態になっていた。  当然、邪龍を捕まえていた力も緩んでしまい、邪龍は再び自 由を取り戻していた。  焦りを覚える愛梨と早苗。必死に状況に抵抗し、何とか持ち こたえる事に成功する。だが……  次に目にした物は、はるか上空に飛び去ろうとする邪龍の姿。    
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