プロローグ

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 二人のテレパシーによる、無言のやり取り。その様子を見つ めていた店内の客とスタッフ達。  母親にしがみついていた少女は頬を紅潮させ、食い入るよう に二人を見つめていた。母親に向い、テレパシーを伴った呟き を発する。 『ママ、大丈夫よ。あのお姉ちゃん達が怖い怪獣と戦ってくれ るんだって。だから、私達はその隙に安全なシェルターに逃げ る事が出来るわ……』  幼いその娘もまた、テレパシー能力を持つサイキックの様だ った。  その場にいた大人達は全員、少し驚いた様子だったが直ぐに 状況を理解したらしく、ビジネスマン風の若い男が愛梨達二人 に向かって声を掛けた。 「君達は……蛍野高校の生徒だね。まさか君達は……ランクA のサイキック、なのかい?」 「はい。最近A判定を受けて、防衛軍に登録されました」  若いビジネスマンの問いかけに愛梨は素直に答えた。 「エクストラ・ディフェンダーフォースのメンバーなんだね」 「もっとも、まだ予備登録の段階ですけど」  驚いたような表情で見ている男性に対して、美瑠羅がそのす ぐ後に補足を付け足した。  若い男は驚きの表情を隠せずにいたが、穏やかな言葉使いで 二人に対して感謝の意を示した。 「済まない。よろしく頼むよ。くれぐれも気を付けて……」 「了解です。アレは私達に任せて下さい。その間にあなた 達は、全力でシェルターに向って下さい」  男性にそう言い残し、更に美瑠羅に後の事を頼むと愛梨は カフェテリアから飛び出して行った。  外に出てみれば、道路脇に植えられている街路樹がものの見 事にスライスされ、倒れた樹木からは白い煙が立ち昇る。  車道には自動車が何重にも追突し、エンジン部分からは炎が 出ている。  遠くで非常事態を告げるサイレンの音と、その中を 逃げ惑う人々。  地獄絵図のような街中だった。  そんな中を愛梨は、持って生まれた能力、感覚を全開にし て、超音速で飛び回る《敵》を探し始めた……。  立ち昇る煙が視界を遮り、更に目鼻を刺激する。更にクリー チャーや周囲の建造物から発せられた電磁波が、愛梨の超感覚 を圧迫する。涙で瞳が潤み始めるが、そんな事を気にしている 場合ではない。  「クリーチャー」の存在を確認した以上、それを無視 して一般市民と共に逃げる事は、彼女には許されなかった。    
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