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三人も死んだクラスの雰囲気は沈鬱だった。
三人の机の上には菊の花が飾られている。もちろんそれは死者を悼むものであって観賞用ではない。
クラスメイトたちは何をしようが、
体育で汗をさっぱり流そうが、
ピアノにあわせて思いっきり合唱しようが、
化学の実験でマヌケなヘマをしてみんなで笑おうが、
教室に戻って三つの菊の花束を見る度に沈鬱な気持ちになった。
しかし、西田晴香はこうしてみると菊の花も捨てたもんじゃない、と思った。
晴香の人生は一気に花開いた。
立ち込めていた暗雲が真っ二つに、いや、奈々の死体のように三つに分かれ、その隙間から希望の光が、神々しく差し込んでいる。
周囲の雑音はカナリヤのさえずりのように響き、
道行くカップルを見れば「私もそろそろ」なんて微笑ましく見送ることが出来た。
あんなにイヤだった学校でさえも、ありとあらゆる可能性を育んでいる神聖な場所に思えて来た。
その通知が来るまでは。
ブブブブブブッ。
ちょうど休憩時間のことであった。
珍しく振動しているスマホを晴香は手に持ち画面を見て、そして、
ごとっ
とスマホを机の上に落とした。
父親の苦労などすっかりトンでしまっていた。黒髪の隙間にある顔は青ざめ、手を、いや、身体全体を震わせて、スマホを拾おうともしなかった。
偶然的に、スマホの画面は上を向いていた。
彼女を監視しているように。
『あなたが死ぬまで残り24時間』
な、なんで?
がたん、と晴香は椅子を下げた。
大事なスマホが、急におぞましい蟲が這い寄って来ているかのように感じられた。
『残り24時間。ただちに次の人を殺して下さい』
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